エンタープライズテクノロジーの分野に長く身を置いてきた私は、何か大きな変化が起きるとすぐに気づくことができます。本日発表された Akamai による Fermyon 買収のニュースは、そうした大きな変化が起きた瞬間の 1 つです。これはエッジでリクエストを処理する軽量な WebAssembly(Wasm)関数や、GPU を利用した高速推論へ必要に応じてインテリジェントにルーティングする技術など、さまざまなテクノロジーが 1 つのプラットフォームにすべて集約されることを意味します。
これが分散型アプリケーションの開発に携わるすべての人にとってどうして重要なのか、その理由を説明していきます。
テクノロジーの未来を生み出すチーム
まずはこうした変化に関わる人たちの話をしたいと思います。Fermyon は Wasm を提唱するだけでなく、本番環境のワークロードで Wasm を便利に使えるよう開発してきた企業です。Matt Butche 氏や Radu Matei 氏が率いる同社は、Wasm を「ユニークなブラウザー技術」から「サーバーレスコンピューティングの未来を象徴するテクノロジー」へと進化させました。また Spin を考案して実際に構築し、Spin を中心としたコミュニティを広げるとともに、大規模環境での運用を可能にしました。
著名なプロジェクトとしては Helm が挙げられます。これは Kubernetes の展開管理のために Matt Butcher 氏とその同僚らが 2015 年に Deis 社で実施したハッカソンプロジェクトとして作成されたもので、今では Cloud Native Computing Foundation(CNCF)でトップレベルのプロジェクトの 1 つとなっています。
Kubernetes の影響でマイクロサービスが主流になる前から、その普及を予見していたのも同社です。同社は他の企業が対応に乗り出すより 3~5 年ほど早く、インフラ移行への適切な対処をしてきた実績があります。
WebAssembly とエッジの併用が次の変革となる理由
上の見出しを別の言い方で表現すると、次のようになります。「スピードに優れたサーバーレスの Wasm ランタイムと、高度に分散されたクラウドプラットフォームの組み合わせで、よりスマートなアプリを迅速に展開し、即座に拡張できるようになる。」これではかえって回りくどいですね。
Wasm はもはやブラウザーでコードを実行するだけのテクノロジーではなく、真のポータビリティを備えたネイティブ並みのパフォーマンスを実現します。「一度書けばどこでも動く(Write once, run anywhere)」という Java のスローガンが今度こそ現実になるのです。コンテナのリリースも、ランタイムの依存関係も不要で、コンパイルしたコードがマイクロ秒単位で実行されることで、最適なパフォーマンスを発揮するアプリを素早くリリースできます。
Akamai EdgeWorkers は JavaScript 関数をエッジで実行できるソリューションでしたが、それをさらにレベルアップさせてくれたのが Fermyon です。Fermyon は単なるエッジ関数の寄せ集めからフルエッジなアプリケーションへの移行を可能にしてくれるテクノロジーだと言えます。
これからは個々の関数を別々に実行するのではなく、高度なルーティングやミドルウェア、サービス構成を備えた完全なステートフルアプリケーションを、起動時間の短さはそのままに展開できます。しかも、複雑なマルチコンポーネントシステムの構築も可能になったため、アプリの機能をさらに強固に(つまりスマートに)しつつ、スピードは維持できます。
Fermyon が考案した Spin のフレームワークを利用すれば、Wasm コンポーネントがそれぞれ異なる言語で書かれていたとしても、それらを組み合わせて完全なアプリケーションを構築し、すべてのコンポーネントをシームレスに連携させることができます。これにより、サーバーレス関数はポータブルなサーバーレスアプリケーションに拡張され、キーバリューストアや SQL データベース、AI 推論機能も搭載されます。マルチクラウドがいよいよ現実のものとなるのです。
さらに、これを Akamai のインフラと組み合わせることで、4,400 か所を超える世界各地のロケーションにコンピューティングを分散できます。Wasm モジュールを Akamai のプラットフォームに展開すれば、ユーザーがどこにいようと応答時間が 10 ミリ秒未満になります。どんな規模が大きくなっても、複雑さは一切ありません。
スピードに優れたサーバーレスの Wasm ランタイムを構築した Fermyon と、高度に分散されたクラウドプラットフォームを運用する Akamai。双方が協力することで、価値創出に必要な時間が短縮されるとともに、よりインテリジェントなアプリケーションの大規模な構築が可能になります。
分散型 AI アプリケーション:ビジョンが現実のものに
AI が進化した未来では、どんな場所でも高度なインテリジェンスを利用できるようになります。これを実現させるための鍵となるのが WebAssembly(Wasm)です。
Wasm を利用すれば、AI を搭載した分散型アプリケーションの開発に必要な時間がかつてないほど短縮されます。しかも Akamai のネットワークによってアプリの動作がさらに速くなり、使えるユーザーや場所も多くなるという確証も得られます。Wasm にコンパイルした AI モデルは、わずか数秒で世界各地に展開され、ユーザーが世界のどの街にいようと 1 秒未満の応答時間で同じように実行されます。
その結果、コアからエッジまで途切れることなくコンピューティングリソースを提供するという Akamai の取り組みがさらに前進します。先日発表された Akamai Inference Cloud に続き、Akamai 上で実行される Wasm 関数の力を NVIDIA Blackwell GPU インフラで利用することで、開発者が新たな機能を生み出すチャンスが生まれます。
軽量の Wasm 関数がエッジでリクエストを処理する際は、GPU を利用した高速推論へ必要に応じてインテリジェントにルーティングすることができ、しかも 1 つのプラットフォームで完結します。エッジコンピューティングの効率性と GPU による高速化の威力をシームレスに組み合わせて利用できるのです。
今後の開発では、スピードとインテリジェンスのどちらか一方を選ぶ必要はなく、その両方を享受できるようになります。Wasm 関数はエッジでのリクエスト処理をマイクロ秒単位で実施し、Akamai の GPU インフラで動作している高度な AI モデルが必要な場合にだけ、それを呼び出します。これこそインテリジェントなアプリケーションのためのインテリジェントなルーティングです。
オープンソースはただの選択肢ではなく 1 つの戦略
オープンソースを維持していこうとする Akamai の姿勢はこれまでと変わりません。Spin はオープンソースでの提供が続けられ、SpinKube は CNCF プロジェクトとして継続されます。開発者の信頼は実際の行動やサポート、コードによる貢献がなければ集められないということを、Fermyon は理解していました。Fermyon は独自のプラットフォームを構築し、開発者を囲い込もうとすることはありませんでした。オープンなツールを作り、開発者が選べるようにしていたのです。
Akamai はこの理念を継承していきます。貴社独自のインフラで Spin を利用したいとお考えであれば、それでも差し支えありません。別のクラウドで運用することも、まったく問題ありません。私たちの目標は開発者を囲い込むことではなく、開発者に選んでもらえるような最高のプラットフォームを作ることなのです。
現時点での開発者にとってのメリット
分散型アプリケーションの開発を手がけている方は、今日から新たなアプローチを選べるようになります。
Rust、Go、JavaScript、Python など、Wasm にコンパイルできる任意の言語でコードを書く。
何時間も待つことなく、わずか数秒で世界各地に展開される。
インフラについて気にすることなく、ゼロから何百万単位のリクエストまで対応できるよう拡張する。
料金は使用した分だけ、ミリ秒単位で支払う。
とはいえ、これよりもっと重要なのは、独自のテクノロジーに依存する必要がないということです。Spin CLI から展開用プラットフォームに至るまで、あらゆるコンポーネントがオープンソースを基盤としています。貴社のコードが Akamai のプラットフォームにロックインされることはなく、ポータブルであることを前提として設計されます。
今後の展望
Web の世界では、集約型のクラウドから分散型のエッジへの移行が進展しつつあります。これはトレンドによるものではなく、物理的な制約によるものです。ある 1 つの地域から世界中のユーザーにサービスを提供する際に、レイテンシーが 100 ミリ秒未満になることは期待できません。バージニア州で実行している AI 推論のサービスを、シンガポールのユーザー向けに提供するのであれば、それを「リアルタイム」と呼ぶことはできません。
こうした問題を解決するのが、WebAssembly とエッジコンピューティングです。世界各地で瞬時に効率よく実行しなければならないワークロードにとっては、これが最適なテクノロジーなのです。
Fermyon が構築したエンジンと、Akamai が提供するグローバルインフラ。これらを組み合わせることで、エッジネイティブなアプリケーションの展開が GitHub へのリリースと同じくらい容易になります。
Web アプリケーションの未来の姿とは、あらゆる場所でコンピューティングが行われるようになることです。今回の買収で、この「あらゆる場所」という文言の現実味がいっそう強くなりました。
Akamai と Fermyon を組み合わせれば、驚くようなアプリを開発できます。
ご興味がありますか?エッジでの Wasm 活用で実際にどんな成果が得られるのか、Spin のページでご確認ください。直接お問い合わせいただくことも可能です。貴社で開発されているアプリについて、ぜひお聞かせください。
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